本文へスキップ

愛媛大学 理工学研究科

研究概要

バイオグラウトによる地盤改良           

   目 次 
1.CaCO3析出による液状化強度特性の改善
2.CaCO3析出による力学特性の改善
3.析出時の飽和度の影響

4.関連発表論文リスト

 地盤に容易に注入できる水に近い粘性を持つ薬液注入による地盤改良法の研究が進められている。これらは,イオン契約液を地盤に注入し薬液に含まれる陽イオンと炭酸イオンなどの陰イオンの結合で生じる難溶解性結晶を間隙や土粒子表面に析出させ,地盤の力学特性を改良するものである。
 難溶解性結晶は数多く存在するが,炭酸カルシウムに着目した者も多い。炭酸カルシウムの結晶の剛性は高く,土中に自然に存在する物質であり毒性がないこと,また扱いやすいことなどがその理由である。本研究では微生物の代謝を利用して,土中に炭酸カルシウムの結晶を析出させる地盤改良工法を取り扱う。


CaCO3析出による液状化強度特性の改善

 本研究では,炭酸カルシウム結晶析出砂の液状化特性を明らかにすることを目的として,炭酸カルシウム析出の有無や量を変えた砂について非排水繰返し三軸試験を行った。また,結晶を析出させた供試体を一度撹乱し同じ密度に再構成した供試体を用いた非排水繰返しせん断を行い,結晶による固結(以下,ボンディングと称する),またはそれによる剛性の違いが液状化特性に及ぼす影響についても調べた。所定量の炭酸ナトリウム(Na2CO3)微粉末をあらかじめ砂に混ぜて作製した供試体に,塩化カルシウム(CaCl2)水溶液を通水し,砂供試体中に炭酸カルシウム結晶を析出させた。着目した化学反応式を式(1)に示す。

(1)
 試験条件は表の通りである。用いた砂は豊浦砂で密度および結晶析出に関わる条件(析出量,通水条件(量,濃度)および養生条件)は等しくした。相対密度Drは全てのケースで約50%とした。なお,ここでの相対密度は,供試体に含まれる豊浦砂のみの質量と供試体体積から求めたものである。

 N(析出無),PL (析出少),P(析出多)の駅除荷強度曲線,および比較のため,既往の研究で行われた非アルカリシリカ薬液による改良砂,セメント混合砂,およびそれぞれの改良前の砂の液状化強度曲線を示した。
 砂質量の1%程度の炭酸カルシウム結晶を含むPLの液状化強度は約2倍に増加している。また3%程度の結晶を含むPでは約4倍程度となっていることが分か る。Pとほぼ等しい質量のセメント(3.7%含有)を混合した砂の非排水繰返し三軸試験7) (図4,二点鎖線)では,無改良砂に対し液状化強度が約2倍に増加している。また,濃度3%の非アルカリシリカ溶液を注入した砂の非排水繰返し三軸試験でも無改良砂に対し液状化強度が約2倍増加している。これら他の改良砂とは,静的せん断強度増加のメカニズムや,供試体作製時の拘束圧の有無などが本研究とは異なるが,他の改良方法と同じ質量比の炭酸カルシウム析出により同程度かそれ以上の液状化強度増加を見込むことができる。
 N(析出無)からPL (析出少)にかけて結晶析出量が増加すると,液状化強度が増加するだけでなく,繰返し回数が小さい範囲での傾きが急増している。これに対して,セメントやシリカを混合したものは,無改良砂の曲線が上方へ平行移動した曲線となっており,繰返し回数が小さい範囲の曲線の勾配に顕著な変化はない。ゆるい砂に炭酸カルシウム結晶を析出させることにより,液状化強度特性が,粘り強い密な砂のそれへと変わることが分かる。
得られた主な結論は以下の通り。

@砂中に析出した炭酸カルシウム結晶には,繰返しせん断による過剰間隙水圧の発生やひずみの成長を抑制する効果がある。

Aボンディングを有する結晶析出砂では,炭酸カルシウム結晶析出量が多いほど液状化強度は大きい。液状化強度は,砂質量の1%程度の結晶析出であれば,無析出砂の約2
倍,3%程度の析出であれば約4倍となった。

B本研究で対象とした析出量の範囲(砂質量の1~3%程度)では,結晶が存在するだけでは液状化強度は増加しない。結晶析出による液状化強度の増加は,結晶によるボンディングによる変形特性の改善が主たる要因である。

C本研究で対象とした析出量の範囲では,結晶析出砂の液状化強度とせん断弾性係数の間に良い相関関係が見られた。

D砂粒子表面に付着した結晶による摩擦の増加や正のダイレイタンシーの増加は,液状化強度に影響を及ぼさない。


CaCO3析出による力学特性の改善

 炭酸カルシウム結晶によるボンディングの有無が砂の力学特性に及ぼす影響を三軸CD試験で調べた。また,走査型電子顕微鏡DEM-EDXで析出結晶の同定とその形状を観察した。
 その結果,得られた主な結果は以下の通りである。

@ 炭酸カルシウムを析出させることで砂の強度は増加する。豊浦砂に対する質量比1.5〜3%の炭酸カルシウム析出で,排水強度が10〜35%増加した。

A 炭酸カルシウムの析出に伴い砂の圧縮性が改善され,正のダイレタンシーが増加する。

B 砂の強度増加は砂粒子表面における炭酸カルシウム結晶の付着による粒子間摩擦の増加と共に,粒子表面形状の変化によるダイレーションの増加に起因する。

C 砂粒子間のボンディングの有無は砂の強度増加に影響を与えない。ボンディングは幾つもの細かい結晶で形成されているため,砂粒子と結晶間の接触面積が小さく,結合力は大きくない。そのため,少しの変形でボンディングは破壊されてしまい,砂野は回強度にはボンディングは影響しない。

D 炭酸カルシウムの析出により,砂のヤング率が最大2.5倍増加した。これは炭酸カルシウム結晶による粒子間のボンディングによるものである。ボンディングがなければ炭酸カルシウムが存在してもヤング率は増加しない。


析出時の飽和度の影響

 炭酸カルシウムを土中に析出させると,砂粒子の表面に一様に炭酸カルシウム結晶が付着する。上述のように,析出した炭酸カルシウム結晶のなかで,砂粒子の接触点付近に析出した結晶のみが砂の強度や液状化強度の改善に寄与することが明らかになった。すなわち,析出した結晶の大部分が力学特性の改善に役立っていないのである。どうにかして結晶の析出を砂粒子の接触点付近に集中できないだろうか?この問への一つの答えが,土の飽和度を低下させることである。脱水し土の飽和度を低下させながら炭酸カルシウム結晶を析出させれば結晶は粒子の接触点に集中し,同じ量の炭酸カルシウム結晶を析出させた場合でもより大きく力学特性が改善するはずである。
 そこで,炭酸カルシウム析出時の飽和度を変化させて供試体を作成し,繰返し三軸試験により液状化強度特性を調べた。供試体は炭酸カルシウムが析出する約2日間は不飽和状態とし,その後三軸試験機内で完全に飽和し液状化試験を実施した。
 その結果,析出率0.6%(砂の乾燥重量に対する析出した炭酸カルシウム結晶の重量)の供試体ではでは,析出時の飽和度を低くすることによってせん断剛性および液状化強度比の改良効果が確認できた.また,析出時Sr=40%の供試体は析出時Sr=100%の供試体と比較して半分の炭酸カルシウム析出量で同じ液状化強度が得られた。析出時の脱水状態が,粒子の接続部に結晶が集中し少ない析出量でも液状化強度が増加したと考えられる。


発表論文リスト

林和幸・安原英明・只信紗也佳・岡村未対(2010): 炭酸カルシウム結晶析出による砂の力学特性の改善効果,土木学会論文集C, Vol. 66, No. 1, pp. 31-42.

林和幸・岡村未対・安原英明(2010):炭酸カルシウム結晶析出による砂の液状化特性の改善効果,地盤工学ジャーナル,Vol.5, No.2, pp.391-400.

小坂佳平,岡村未対(2015):炭酸カルシウム析出時の飽和度の違いが液状化強度特性に及ぼす影響,第50回地盤工学研究発表会

Yasuhara, H., Hayashi, K. and Okamura, M. (2011): Evolution in Mechanical and Hydraulic Properties of Calcite‐Cemented Sand Mediated by Biocatalyst , Proc. Geo‐Frontiers 2011: Advances in Geotechnical Engineering.

Minson Simatupang, Yoshihira Kosaka and Mitsu Okamura (2015): Effects of defree of saturation on liquefaction resistance of sand improved with enzymatic calcite precipitation, Pro. the 2nd Makassar International Conference on Civil Engineering (MICCE 2015). 

Minson, S., Okamura, M., H. Hayashi and H. Yasuhara (2018): Small-strain shear modulus and liquefaction resistance of sand with carbonate precipitation, International Journal of Soil Dynamics and Earthquake Engineering, Vol. 115, pp. 710-718, https://doi.org/10.1016/j.soildyn.2018.09.027

林和幸,岡村未対,安原英明,Minson Simatupang (2018):炭酸カルシウム結晶析出時の飽和度が改良砂の液状化強度特性に及ぼす影響,土木学会論文集C, Vol.74, No.2, pp. 164-176.

Minson Simatupang and Mitsu Okamura (2017): Liquefaction resistance of sand remediated with carbonate precipitation at different degrees of saturation during, Soils and foundations. Vol. 57, No. 4, pp. 619-631.