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愛媛大学 理工学研究科

研究概要

山岳盛土擁壁の耐震診断法           

   目 次 
1 山岳道路盛土のブロック積擁壁の地震時崩壊メカニズムと安定性評価法
2 関連発表論文リスト


 2004年の新潟県中越地震では,中山間部の多くの道路が甚大被害を受け,中山間部集落は孤立化した。孤立化した集落へ通じる道路のほとんどは,切土および盛土によって山肌に建設されたものであった。国土の大半が山岳地帯の我が国では,今後も繰り返し発生することが考えられるタイプの被害である。近い将来に発生することが確実な東南海,南海地震では,さらに急峻な地形をなす四国や紀伊半島の山間部を含むほぼそれらの全域で震度が5強以上と想定されており,道路ネットワークの貧弱な中山間部における集落の孤立化が,広域にわたって数多く発生することが懸念される。
 我が国の道路盛土の設計では,地震の作用を陽な形では考慮しないのが一般的である。これは,盛土構造物の修復性の高さを考慮し,地震により被災しても短期間で復旧できることを前提としたものである。しかしながら,山間部の道路が被災すると復旧に著しく時間を要することになり,緊急輸送路の確保だけでなく,地域や集落の存亡に関わる事態に発展する。代替経路の無い中山間地集落への道路は,一定の耐震性を確保するか,あるいは少なくとも地震による被害リスクの定量的な評価を行うことが必要である。我が国には既に膨大な数の道路盛土が存在するため,簡便で実用的な点検方法の開発が望まれている。


2004年新潟県中越による山岳盛土ブロック積擁壁の被害

 山岳盛土の地震による被害パターンは,図-1のように3つに大別されよう。すなわち,@盛土部の崩壊,A山側斜面の崩壊による道路閉塞,およびB道路全体を巻き込む大規模な山腹崩壊である。Aのタイプの崩壊の多くは崩壊土砂量が限定的なことがほとんどであり,比較的短時間での復旧が可能であり,Bのタイプは復旧には困難であるが発生頻度は少ない。@のタイプでの盛土部の崩壊は,集水地形における盛土などが地震による過剰間隙水圧の上昇によって崩壊するものと,盛土の谷側を押さえるための擁壁に起因するものに分けられ,何れも復旧が極めて困難なタイプの崩壊であり,特に擁壁の崩落による道路崩壊の発生頻度は高い。山間部の道路盛土の耐震性を確保するためには,長い延長を有する道路から耐震性の劣る箇所を効率的に抽出する耐震点検技術が必要である。本研究では擁壁の崩落による盛土崩壊に焦点を当て,新潟県中越地震で発生したこのタイプの崩壊現場の調査を行い,その結果を基に山岳道路擁壁の耐震性点検法の確立を目的とした。そこでは,道路盛土の点検を行うことを念頭におき,簡易でかつある程度精度良く既存擁壁の耐震性を評価できる方法を目指した。

  



 詳細な細な現地調査から,ブロック積擁壁が大崩壊を生じる場合の原因が基礎の支持力破壊であることを明らかにした。そこで,被災現場にて採取した試料の室内試験を行い強度定数を求めると共に,動的簡易貫入試験を行いNd値を測定した。荷重の偏心と傾斜,および斜面の影響を考慮した支持力安全率が,擁壁の被害と無被害を判別する良い指標であることをらかにした。また,1カ所の調査が30分程度で行うことが出来る簡易動的貫入試験結果から地盤の強度定数を推定し,これにより耐震性を評価できることを示した。

     


発表論文リスト

岡村未対(2005):山岳盛土擁壁の簡易な耐震性点検法に関する研究,土木学会地震工学論文集

岡村未対・重松慎哉(2008):山岳道路盛土のブロック積擁壁の地震時安定性評価法,土木学会論文集,pp.770-775