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愛媛大学 理工学研究科

研究概要

鉱滓ダムの地震時安定性           

   目 次 
1 2010チリMaule地震によるLas Palmasダムの崩壊
2 2011年東北太平洋沖地震での被害
3 内盛り式鉱滓ダムの地震時安定性に関する実験の地震時安定性

4 関連発表論文リスト


 1978年に発生した伊豆大島近海地震では,持越鉱さいダムが液状化によって破壊し堆積物の流出事故が発生した。これを契機に鉱さいの液状化強度に関する研究は進められたが,鉱さいダムのかん止堤部や全体の安定性に関する研究は多くない。最近では,2010年のチリ地震や2011年の東日本大震災でも鉱滓ダムが崩壊し大きな被害が発生した。現在,我が国の鉱滓ダムは中規模地震相当の地震力に対して耐震設計されており,大規模地震に対する耐震性を明らかにすることが重要である。


2010チリMaule地震によるLas Palmasダムの崩壊

 2010年にチリで発生したMaule地震によりVeta del Agua,Florida,Las Palmas の3 箇所の鉱さい堆積場が被災した。Las Palmas では流出した鉱さいが家屋を襲い,一家4 名(夫婦と子供2 人)の命が奪われた。
Las Palmasにおいて崩壊および鉱さい流出範囲をGPS によって調べた。流出長さはのり尻から流出範囲の端までと考えると水平距離で約400m となる。また,鉱さいの崩壊・流出全範囲は長さ約650m,最大幅約250m となる。一方,レーザー距離計によってA-B-C 測線に沿った数点の距離と高さを測定し断面も推定した。滑落崖位置B の高さを0m として,各点の高さを表示してある。B よりA 側約75m の位置から背後に約15m 高くなっているが,これが第3 堆積場の東側扞止堤と考えられる。B からC に向かっては約30m 下がっている。

 


2011年東北太平洋沖地震での被害 

 東日本大震災により幾つかの鉱滓ダムで甚大な被害が発生した。

  

 


内盛り式鉱滓ダムの地震時安定性に関する実験

 安定性が低いといわれる内盛り式(アップストリーム法)鉱さいダムの動的遠心模型実験を行い,地震により液状化した鉱さいダムかん止堤の挙動について調べた。そして,地震加速度と液状化による土圧の増加を考慮した極限平衡法による安定解析を行い,その妥当性を確認した。

 40g場における動的遠心模型実験を行った。図に動的遠心模型実験に用いた3ケースの模型の概略を示す。勾配と高さが同一で天端長さのみ異なるかん止堤を組合せており,各かん止堤の接合面である天端長さを変化させる事でかん止堤の水平変位に対する安定性を変化させた。図中の値は模型スケールで示してある。
かん止堤盛土にはカオリン粘土と硅砂8号の混合試料で締固め度Dc=99%(γt=20.0kN/cm3)で作成した。鉱さいを模擬した堆積砂には硅砂8号を用い,空中落下法でDr=40%にゆるく堆積させた。

 実験で観察された変形状況とそのメカニズムは次の通りである。堆積砂が液状化し,1段目のかん止堤は浮力が小さいため沈下した。また,液状化が生じる事によって土圧が増加するため盛土2,3段目は側方に変位した。かん止堤1段目横は堆積砂が約0.6mと浅く土圧が小さいため,側方流動よりも沈下が起こった考えられる。なお,かん止堤1段目にはクラックが生じ左側の部分が折れ曲がるように沈下した。







発表論文リスト

日本地震工学会・土木学会・地盤工学会・日本建築学会(2010):2010年チリ地震合同調査団報告書

石川啓考,岡村未対(2011):地震により液状化した鉱さいダムの安定性評価,第46回地盤工学研究発表会