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陸域から沿岸海洋における海洋プラスチックの動態解明

プラスチックを使わない生活をしたことがありますか?おそらく一人もいないと思います。我々の生活にはそれくらいプラスチックが溢れています。近年の科学的あるいは市民的な調査により、このように我々の生活に必要不可欠なプラスチックが、河川・湖沼・海洋など様々な水環境中で発見され、海洋生物の潜在的な脅威になることが指摘されています。さらに、水環境中のプラスチックは我々が使用した製品形状のままではなく、紫外線や熱により劣化した微細なプラスチックになっています。この5mm以下の微細なプラスチックを「マイクロプラスチック(以下, MicP)」と呼び、プランクトンと同等もしくはそれ以下のサイズになります。
本研究では、このようなプラスチックが我々の生活圏から沿岸海洋に流れ出るプロセスを明らかにすることで、海洋プラスチック汚染の解決策や軽減策を提示することを目標としています。これまでの研究成果として2つを紹介します。

水環境におけるマイクロプラスチックのモニタリング

これまで日本全国河川(70河川90地点)でMicPを採取し、国内河川における汚染状況を明らかにしてきました(Fig.1)。日本全国の平均MicP濃度(1m3当たりの個数と質量)は、4.3±8.0個/m3(個数ベース)、0.79±1.9mg/m3(質量ベース)でした。すなわち、河川水1m3当たりに4個(0.8mg)のMicPが含まれているということです。これはあくまで平均値であり、場所や時期によって大きく異なり、MicP濃度のオーダーは10-2-102の範囲で変動します。図中の濃淡は市町村毎の人口密度であり、人口が集中する三大都市圏でMicP濃度が高いように見えます。実際にMicP観測点上流域の人口密度とMicP濃度の関係をみると、有意な相関が得られました。したがって、本研究により我が国においても生活圏から出たプラスチックが細かくなって河川に流出していることが明らかとなり、さらに人口が多い流域からたくさん出ていることがわかりました。

代表論文: Kataoka et al., 2019. Assessment of the sources and inflow processes of microplastics in the river environments of Japan. Environ. Pollut. 244, 958-965. 10.1016/j.envpol.2018.10.111

Figure1
Fig.1 Microplastic concentration map in Japanese rivers.

マクロプラスチックのセンシング技術の開発

MicPに関する調査が世界的に進む一方で、その元となるマクロプラスチック(以下、MacP)が陸域からどの程度海洋に流出しているのかがよくわかっていません。そこで、ビデオカメラ動画を解析することで、MacPが単位時間に輸送される量、すなわちMacP輸送量を計測する技術を開発しています。これまでの研究では、ビデオカメラで橋の上から撮影した画像を解析して河川浮遊ごみ(自然ごみも含む)の輸送量の計測手法を開発してきました(Fig.2)。例えば、ペットボトルを流した水路を真上から撮影した画像(Fig.2a)に本手法を適用すると、ペットボトルのみを抽出できます(Fig.2d)。さらに、本手法を橋梁から河川水表面を撮影した画像(Fig.2e)に適用すると、河川浮遊ごみを抽出することに成功しています(Fig.2h)。そこで、Fig.2eにあるネットで採取したごみの量と画像解析から得られた面積を比較したところ、有意な相関があり、このことは動画を用いた河川浮遊ごみ量のモニタリングが有用であることを示しています。現在は、これにAI技術を取り入れることで、MacPのみを抽出して定量化することを試みています。

代表論文:Kataoka and Nihei, 2020. Quantification of floating riverine macro-debris transport using an image processing approach. Sci. Rep. 10, 2198. 10.1038/s41598-020-59201-1

Figure2
Fig.2 Image analysis for quantifing riverine debris transport in river surface.

リモートセンシング技術を用いた海洋波のモニタリング

本研究では、沿岸海洋におけるリモートセンシング技術の一つである海洋レーダを用いた面的波浪計測技術の開発を進めています。海洋レーダは陸域から海面に電波を照射し、海面での散乱波を受信することで海表面の流況や波浪を計測できるリモートセンシング技術です。一般に、国内外における海洋波は海底や海上に設置する波浪計で点的に計測されていますが、海洋レーダを用いることで広域に高分解能で波浪場の変化を把握することが可能になります。そこで、本研究室では、国内外に設置されている海洋レーダのデータを用いて波浪計測技術を開発することで、海洋波の伝搬過程や成長過程の時空間的変動について明らかにする研究を進めています。これまでの研究成果として汽水域における海洋レーダの波浪計測の実例を紹介します。

汽水域における海洋レーダによる波浪計測の精度検証

海洋レーダを用いることで、深海から沿岸に伝搬してくる波浪をシームレスに計測できることが期待されます。しかしながら、深海域による計測実例は多くある一方、沿岸近くの浅海域における計測実例は多くありませんでした。特に、河川からの淡水流入により、塩分が低い汽水域では電気伝導度が低く、海洋レーダによる波浪計測が困難になると考えられます。そこで、本研究では、汽水域を対象に海洋レーダによる波浪計測の精度検証を行い、よりロバストな海洋レーダを用いた波浪計測手法を開発しています。こちらは我が国の代表的な汽水域の一つである伊勢湾(Fig.3)における波浪計測の実例(Fig.4)です。台風が伊勢湾付近を通過した2019年8月19日から8月27日の期間を対象に海洋レーダで波浪計測を行った結果です。台風の接近に伴い、南寄りの風が吹き、8月23日午後から24日午前にかけて降水が確認されました(Fig.4a)。これにより河川から伊勢湾に淡水が流入し、8月25日以降、Stn.Aで塩分の低下が確認されます。これにより海洋レーダで計測された有義波高(Hs)の計測誤差が大きくなっています(Fig. 4c, 4d)。このように汽水域における波浪計測精度を検証して、精度向上につながるノイズフィルターのアルゴリズムの開発などを行っています。

Figure3
Fig.3 High-frequency radar stations (N: Nabeta, T:Tsumatsusaka, O: Oominato), and monitoring sites of waves, water quality and wind data (triangle).
Figure4
Fig.4 Timeseries of rainfall and winds at stn. A (a), sea surface salinity at stn.A (b), and significant wave heights observed by wavemeters and radars (c).The rader-derived Hs (case 0 in Fig. 4) were successfully improved by removing noises (case 1 in Fig. 4).