平成29年3月2日、日本大学駿河台キャンパスにて、吉井が委員を務める交通工学研究会、土木計画学研究委員会の主催で「これらかの交通事故リスクマネジメント」に関するセミナーを開催しました。当日は,およそ120名の交通技術者らが参加し、交通の安全向上に向けた効果的な交通マネジメント方策のあり方を議論しました。 ![]() ![]() ![]()
吉井 稔雄 先生(愛媛大学)
開会の挨拶として、 交通事故リスク マネジメントの考え方と必要性が紹介されました。これまでの事故発生件数に基づく事故対策に代わり、交通事故リスクマネジメントでは道路の走行台キロで基準化した事故件数、すなわち事故リスクを定量的に評価・算定し、同リスク値を踏まえた交通マネジメントによって交通事故の減少を目指します。
蓮花 一己 先生(帝塚山大学)
心理学の観点からの事故リスクマネジメントへのアプローチが紹介されました。交通参加者の個人差を前提に、人的要因が事故リスクに与える影響を明らかにする試みの一つとして、高齢ドライバーの認知機能と運転行動の関連分析が報告されました。また、個々のドライバーのリスク行動傾向を評価・診断する試みとして、ジャイロセンサを用いた運転診断ツールの開発や運転教育への活用、さらにドライバー間の相互作用が事故リスクにつながる事例などのご発表がありました。 赤羽 弘和 先生(千葉工業大学)
香川県の一般道路を対象とした包括的な事故リスク分析結果を踏まえて、地域特性を考慮した安全対策の実情と課題が紹介されました。交差点事故や横断歩行中の事故を例に、事故リスクが高まる要因と工学的な解決案を提示した上で、実際に安全対策を実施する上で鍵となる地域の実情が紹介されました。また、地方の交通文化は地方特有の道路構造特性に由来することを示唆する分析結果が示されました。 吉尾 泰輝 氏(首都高速道路株式会社)
首都高速道路における事故リスク予測モデルの構築と交通マネジメントへの活用方策が紹介されました。過去の事故記録と交通流データ、道路線形データを組み合わせて事故の起こりやすい時と場所を予測するモデルを構築し、それに基づく道路利用者への安全ルート情報の提供案や、道路パトロールカーの運行管理への活用案が紹介されました。
岩里 泰幸 氏(阪神高速道路(株))
阪神高速道路における交通事故リスクマネジメントへの取組が紹介されました 。利用者への具体的な事故リスク情報の提供事例として「阪高SAFETYナビ」や「スマートチョイス」への活用が紹介されました。それに加えて、アンケート結果に基づいて、利用者が重要視する&分かりやすい事故リスク指標案を紹介いただきました。
福岡高速道路における利用頻度からみる事故傾向とその活用の検討 白石 元紀 氏(福岡北九州高速道路公社)
交通事故リスクは時(e.g., 交通状況や天候等)と場所(e.g., 道路構造要因)だけでなく、運転者の属性、すなわち人的要因によっても変動します。福岡高速道路では運転者の道路に対する「慣れ」に着目して、利用頻度と事故発生状況の関係を調査しています。発表では、高頻度利用者が事故を起こしやすい傾向にある可能性が示され、 ヘビーユーザーをターゲットとした事故対策の必要性が紹介されました。
萩田 賢司 氏(自動車安全運転センター)
交通事故リスクは事故発生件数を暴露度指標によって基準化しますが、一般的には走行台キロが使われます。本発表では、道路交通に関わる各種調査結果を活用した日本全国の走行台キロ推定の可能性を検討した後に、年齢・性別・車両種別等、各種条件別に全国の交通事故率をマクロに捉える試みが紹介されました。 また、道路利用者属性割合の推定において、交通事故の無過失第二当事者割合の利用可能性が報告されました。
平岡 雄介 氏(松山河川国道事務所)
生活道路における交通事故リスクの試算結果が報告されました。生活道路の走行台キロは、ETC2.0搭載車の走行台キロに、交通量調査結果に基づいて得られた拡大係数を乗じることにより推定されました。愛媛県松山市の中心部を対象とする試算では、幅員13m未満の生活道路の交通事故リスクは、幹線道路の約2.1倍に達することが示され、高規格道路への交通誘導の必要性が報告されました。
大藤 武彦 氏((株)交通システム研究所)
阪神高速・岩里さんがご紹介された阪神高速道路における事故リスク情報の活用方策について、それを支えるリアルタイム事故リスク予測モデルの概要を中心にお話し頂きました。阪神高速では、過去の事故記録や交通流データ、道路幾何構造データや気象データを統合した事故リスク予測モデルの構築や検証、さらに同モデルをリアルタイム事故リスク情報提供システムに実装する取組が行われています。 今後は利用者・道路管理者双方への事故リスク情報提供方策や、ニーズを踏まえた情報提供内容の検討が課題となります。
新潟都市圏における事故リスクマネジメント研究の進捗と今後の展開 西内 裕晶先生(高知工科大学)
新潟都市圏の道路網を対象とした交通事故リスクマネジメント・プロジェクトが紹介されました。特定路線の事故リスク情報に留まらず、競合する路線のデータも活用することで都市圏全体の交通 マネジメントを目指し、同プロジェクトでは新潟県警(一般道)と新潟国道事務所(バイパス)、NEXCO東日本(高速道路)のデータを統合した交通・事故データベースと事故リスク推計モデルの構築、さらにSP調査に基づく情報提供効果の試算を行っています。また、情報提供の実現を目指した産官学協同研究会:新潟都市圏交通事故リスクマネジメント研究会の紹介がされました。
室町 泰徳 先生(東京工業大学)
リアルタイム交通事故リスク評価モデルの構築と、同モデルを活用したミクロ交通シミュレータ内での事故回避施策の効果検証について紹介されました。首都高速道路の放射路線を対象に、ベイジアンネットワークによるリアルタイム事故予測モデルを構築し、
車両速度制御とランプ流入制御による事故リスク低減効果についてVISSIM内で検証しました。対策による交通流の詳細な変化と事故リスクの関連性が示されました。 ベイジアンネットワークを用いた都市高速道路における交通事故要因の抽出 倉内 文孝 先生(岐阜大学)
阪神高速道路における交通事故リスク予測モデルでは交通流状態や道路構造、気象条件等、多数の説明変数を用いていますが、各変数は独立の仮定が置かれています。本発表では、ベイジアンネットワークを用いて、相乗・相殺効果を持つ変数の組み合わせを抽出する試みが紹介されました。幾つかの相乗効果を持つ変数組が抽出されましたが、これらの要因を既存の事故リスク予測モデルに取り込むことで、精度の向上が期待されます。
倉内 慎也 先生(愛媛大学)
交通事故リスクマネジメントでは事故リスク情報の提供によってドライバーの行動変容を促すことを目指しますが、本発表では効果的な事故リスク情報の提供方法を検討しています。3種類の事故リスク情報(事故をおこす確率、事故に遭遇する確率、事故によって失う金銭的損失)を用意し、各情報を提示された場合のドライバーの経路選択行動をSP調査によって調べたところ、いずれの情報もドライバーの行動変容を促す効果が期待できることが明らかになりました。また、事故リスク情報の提供は大きな金銭的価値を持つことが示されました。
浜岡 秀勝 先生(秋田大学)
東北地方で発生した逆走事例を対象に、逆走の起こりやすい場所や状況に関する報告が為されました。車線数や交通量による逆走発生状況を整理した結果、片側2車線で交通量が少ないほど逆走が多く発生する傾向が示されました。また、インターの構造別に推定される逆走経路や逆走理由が詳細に分析され、逆走パターン別に紹介されました。
塩見 康博 先生(立命館大学)
細街路エリアを対象とした事故リスクの算定と事故要因分析について報告されました。香川県の中讃エリアと高松エリアを対象に、民間プローブの走行台キロを拡大することによって細街路エリアの走行台キロを推定し、500m四方のメッシュごとに事故リスクの試算を行いました 。また、メッシュの土地利用特性データを用いて事故リスク要因を推定した結果が紹介されました。最後に、急減速データによる事故データの代替性に関する検討が紹介されました。
兵頭 知 先生(日本大学)
愛媛県の主要幹線道路を対象とした時間帯別交通量を考慮した事故リスク分析が紹介されました。一般道路を対象に、交通センサスデータから得られる時間交通量を説明変数に加えた事故リスク推定モデルを構築した結果、信号交差点密度や沿道状況に加えて、時間交通量レベルの変動に応じて事故リスクが変動することが示されました。
高齢社会における自動車利用実態に関する分析-静岡都市圏を対象に- 中村 俊之 先生(京都大学)
高齢人口の増加に伴い、公共交通サービスレベルの低い地方部においては高齢者の自由な移動が困難になることが予想されます。本発表では、高齢者の移動満足度と生活満足度の関係が紹介されました。静岡都市圏を対象とするアンケート調査に基づく分析の結果、自動車を自由に利用できない場合の不便性が日々の移動に対する満足度、さらには生活の満足度に負の影響を与えることが示されました。
宇野 伸宏 先生(京都大学)
高齢社会における交通基盤整備の方向性や課題が紹介されました。限られた財源の中で、高齢者の活動に配慮した交通基盤整備を進める際に、自動運転技術の活用やコミュニティによる移動手段の互助・運営が考えられます。本発表では、これらを実現し、維持する上で解決すべき技術的、あるいは制度面での検討課題が示されました。 コーディネーター:吉井 稔雄(愛媛大学) 道路の安全性向上のためには、従来の事故発生件数や事故多発地点の情報に基づく対策から、事故リスク情報を活用した対策が必要になります。本パネルディスカッションでは、今後の交通マネジメントのあり方を考える上で大きな課題である「高齢ドライバーによる事故」、「歩行者/自転車の事故」、そして「運転者の疲労による事故」に着目し、更なる安全性向上に向けて事故リスクに期待される役割や今後の展望について、
パネラーの皆様による討議が行われました。 |