構造数理工学研究室

研究紹介

過去の研究紹介もあります.こちら

研究会等の資料・成果等も公開しています.

最近の研究内容(超音波イメージング,アコースティックイメージング,映像化)

○非破壊検査による健全度診断技術の開発
応力集中等によって進展したき裂(クラック)や,鋼の製造過程で混入した介在物や空洞形状を超音波を用いて高速かつ高精度にイメージングする手法を構築中です.最近では,個々の圧電素子を電子走査することで超音波の送受信方向を制御するアレイセンサーを用いたイメージング法に取り組んでいます.

(1)時間領域で画像を再構成する方法

我が研究室では,Full-waveform Sampling and Processing(FSAP)と呼ばれる方法を用いて,アレイ探傷を行っています.この方法は,一般的なアレイ探傷器のように同時励振する必要がないので,高価な電子スキャン装置を購入する必要もなく,オフライン・オンラインどちらでも画像化が可能です.以下に,5つの横穴を画像化した例を示します.横穴の大きさと位置が正確に再現されています.FSAPはセクタスキャンやBスキャンとは異なり,実際のきずの配置通りに,欠陥の位置が画像化されます.

もちろん“き裂”などの面状欠陥も有効です.FSAPは波形処理も後付けで可能です.ここでは散乱振幅という情報を使うことで,高分解能な画像を出力しています.下の例は,2MHzの狭帯域探触子を使ったものですが,波長と同程度の縦分解能が得られています.

(2)周波数領域で画像を再構成する方法

周波数領域で画像化するメリットは「高速性」です.特にこれは,きずの3次元ボリュームを再現するときには非常に有効です.ここでは線形化逆散乱法をベースにした画像化手法Inverse Scattering Imaging Method(ISIM)を構築しています.簡単に言えば,は各素子で計測した散乱波形(フルウエーブ)を位相情報を保持しながら周波数領域で重ね合わせ,それをフーリエ変換で実空間に戻す手法です.以下に示すのは,アルミニウム中の人工欠陥を再現したものです.

(3)可撓性アレイプローブによる超音波非破壊検査に関する研究

フレキシブルアレイプローブ(可撓性探触子)を用いて,偶角部,任意曲率や凹凸を有する金属の超音波探傷を行うための基礎的研究を行っています.ここでは,超音波シミュレータを援用してアレイ素子のディレイを計算し,このディレイを電子スキャン装置に入力することで,フレキシブルアレイプローブから超音波集束ビームを放射することに成功しました.この集束ビームによるセクタスキャン法を用いて,アルミニウム供試体内部の横穴(人工欠陥)が良好に再構成できました.

最近の研究内容(波動伝搬解析,イメージベースモデリング)

○弾性波の大規模伝搬解析に関する研究
固体内を伝搬する波動は弾性波と呼ばれます.弾性波には,地盤を伝搬する地震波,水中や空気中を伝搬する音響波等が含まれます.非破壊検査では,検出すべき欠陥の大きさに合わせて,送信する周波数を調整しています.コンクリートでは数十から数百KHz,金属では数MHzから数十MHzが一般的です.近年の非破壊検査ニーズの多様化・複雑化に伴い,弾性波をシミュレーションする技術も高度化が求められるようになりました.構造工学研究室では,対象とすべき被検体の写真データ,CTデータ,CADデータから数値モデルを作成し,それを元に波動伝搬解析を行うイメージベース解析を研究しています.

(1)コンクリート中を伝搬する弾性波(超音波)

コンクリートはセメントペーストの中に粗骨材,細骨材が含まれ,ミクロ的にみれば気泡や水泡も存在しています.これらはランダムに分布しているため,コンクリートは非常に非均質な材料といえます.私たちの研究室では,コンクリートの分布形態を出来るだけ厳密にモデル化できるイメージベース波動解析について取り組んでいます.コンクリートの断面写真やCT画像からモデルを起こします.これを,Elastodynamic Finite Integration Technique(EFIT)にインプットして,波動解析を行います.我々の研究室では,EFITのコードは自分たちで組み,それを並列化・大規模化し,効率的に計算する研究をしています.


このアニメはAVS/Expressによって可視化しました.他,コンクリート中を伝搬する弾性波(超音波),電磁波について,サイバネットさんのHPでも紹介されています.

(2)異方性材料を伝搬する超音波

異方性とは方向によって材料の力学的性質が異なることです.異方性材料中では,一般的には3つの独立したバルク波(P,qS1,qS2波)が発生します.異方性は,圧延した鋼材や,繊維補強材料等で見られます.溶接部は溶接金属の成長方向によって,局所的に異方性を呈するようになります.実際に溶接金属の成長方向がどうなっているのかは,EBSP等の物理検査によって明らかにしなければなりませんが(現在調査中),EFITは非均質・異方性を示すものでも容易に波動伝搬解析が可能です.以下に示すのは,溶接部の超音波の伝搬解析です.なお,溶接部の底面に応力腐食割れ(SCC)を模擬した欠陥を入れています.

これを画像処理して,結晶方向を抽出(↓)

結晶方向を考慮した波動伝搬解析の実施(↓)

(3)複雑な外形を持つ材料中を伝搬する超音波の3次元可視化(医療超音波)

近年の計算機性能の向上,並列計算の普及等によって大規模な計算が比較的身近にできるようになっています.有限要素法(FEM)や境界要素法(BEM),有限差分法(FDM)等のどの時間域解法をみても,たいてい要素長は波長の1/8程度より小さくしなければいけないという縛りがあります.そうなると,非破壊検査の超音波領域の計算で,例えば10cm立方サイズをEFITで計算しようとすれば,億単位以上の要素数が必要となってきます.さすがに,1つのPCでは記憶容量に限界がありますので,複数のPCを並列に用いた(プロセス並列,MPIライブラリの使用)によって,大規模化を実現しています.次の例は,発電プラント中のタービン部材の一部を超音波探傷した場合のシミュレーション結果を示しています.非常に複雑な形状ですが,超音波は縦波が先に伝搬し,あとから横波が追いかけるという現象を見ることが出来ます.

また,レーザー変位計や投影光パターン等から表面形状データが得られれば,それを元にモデルを作成することができます.これは,人間の顔を投影光パターン計測から再構築し,鼻の部分から超音波を送信した場合の結果です(遊びです).


これは単なる遊びですが,今後,医療超音波等に応用できたらいいなと思っています.
また,実際の非破壊検査では,溶接余盛やさびによる減肉部分をモデル化し,シミュレーションすることもできます.いろいろな使い道があると期待しています.

○音波-弾性波のカップリング解析に関する研究

気体-液体-固体中を伝搬する超音波の解析(空気超音波法,非接触探傷法)
固体中は縦波と横波が存在し,気体と液体中は縦波(圧縮波)のみが存在します.上記の例で,固体中を伝搬する波動はEFITでモデル化することが出来ます.気体と液体中の圧縮波はAFIT(Acoustic Finite Integration Technique)で解析することができます.もちろん,AFITとEFITの練成も可能です.以下に,近年注目されている空気超音波法(エアカップル法)と呼ばれる非接触探傷の数値解析例を示します.空気と固体では音速が1オーダー程度違いますので,空気中では波長が短く,伝搬速度が遅いことが分かります.また,インピーダンスも大きく違いますので,かなり強く超音波を励起しないと固体内には有益なエネルギーが入射されません.また,固体から空気中に漏洩する超音波(漏洩波)も非常に微弱です.

○電磁波の大規模伝搬解析に関する研究
コンクリート中を伝搬する電磁波(電磁波レーダ法のモデル化)
コンクリート中の鉄筋や塩ビ管等の異質物を検出するのには,超音波よりも電磁波が適しています.ここでは電磁界有限積分法(Electromagetic FIT: EMFIT)を用いて,コンクリート中の電磁波の伝搬解析を行っています.電磁波は導体で完全反射しますので,鉄筋部からの反射が強く見られます.
(上図の緑色が鉄筋です.コンクリートの上部にアンテナを設置した場合のシミュレーションです.)

最近の研究内容(超並列計算,計算力学)

○マルチコア(CPU)による大規模並列計算
陽的有限積分法(FIT)の大規模解析の検証を,HX600 (旧 京都大学スーパーコンピュータ) を用いて行いました(H23年).1024 並列規模の計算における有効性が確認され,大規模計算における新たな展開が見い出されました.現在は,CRAY(新 京都大学スーパーコンピュータ)を用いて,さらに大規模の4096並列の計算を検証中です.下の図は,コア数を1000まで増やしたときのスピードアップ効率を検証したものです.ボクセル数が増えても,スケーラブルに計算できています.

○メニーコア(GPU)による大規模並列計算
汎用計算にGPUを使用する試みはGPGPUと呼ばれ,国内外で盛んに行われています.GPUはコアの数がCPUに比べて多く,ビデオメモリとの通信バンド幅を広く備えるために,CPUと比べて性能の成長率が高いのが特徴です.GPUをグラフィック処理専用のCPUの補助プロセッサとしてだけではなく,並列計算ユニットとして利用する試みが活発化しており,我が研究室でも,CUDA FortranによるイメージベースFITの高速化について検討を行っています.最近の研究では,CPU計算(倍精度,1コア)に比べてGPU計算(単精度)は最大で43倍の高速化が得られました.FITはステンシル計算となり,メモリ律速型であることが特徴です.メイン-デバイス間のメモリのやりとりを工夫しながら,より高速な解法を研究中です.

PAGE TOP
Copyright © 愛媛大学 構造数理工学研究室 All Rights Reserved.